PEGASUS 4 – 7 “Wing”

昼間見た

あなたの白い歯が

真夜中

ペガサスになり

夢の中に飛び込んで来て

月の方へ

僕を乗せて雲を貫いた

 

月明かりはぽろぽろと

冷たい雫で頬を流れる

手綱を握る僕の力は抜けていく

振り返るペガサス

瞳の色がエメラルドでできていた

 

大気圏を後ろ足で蹴り

スピード上げる合図かいななくペガサス

僕は熱に浮かされたように

あなたと真っ赤にガラス玉になる

心地よい涙は溢れるそばから蒸発して行く

睫に残る雫の内部が渦巻き虹に見えた

 

私達きっと今頃流れ星よ

角を振りかざすときペガサスの瞳はルビーに変わる

ひづめの音は真空に飲み込まれ

僕らの会話は途切れ途切れの羽ばたきになる

最後の言葉が喉のつららを燃やし尽くすさ

光を抱きしめないここは美しくも黒い流氷の海だけど

翼の付け根の筋肉はやがて血流で張り裂け

棘を気にせず駆け抜けた薔薇の花びらの舞いを思い出させた

僕は両手を差し込んでその温もりと引き換えに

あの頃の僕の傷口から記憶を残らず注ぎ込む

そしてひと想いに翼をもぎ取り投げ捨てた

 

月を逸れて僕らは永遠ほどの旅になった

もう戻ることはできない翼のないペガサスと人間の僕だ

あなたは白く眠ったまま人の姿を取り戻しつつある

あの角はこころになりやがて見えなくなったけど

そのらせんの模様を僕はまだはっきり憶えてる

 

僕はあなたとの初めてのくちづけをして

流れるままに二度目のくちづけも三度目のくちづけも

そして最後のくちづけさえして

あなたの翼の傷は消えていくけど

僕の両手の傷口は閉じそうにない

裸のままあなたは音のない冷たい世界に一人きり

僕の瞳はいつからかあなたの白さでやられている

 

あなたは僕には美しすぎる

あなたがその目を覚ます前に

この醜い僕は燃やし尽くしてしまいたい

火の星と水の星の線上で

僕はあなたの背中を押すから

もう一度水の星へお帰り

 

僕は火の星へ落ちていく

君の遠く小さな白い点になるまでを

背中を燃やしつつ見送りながら

 

あなたは水の星に落ちた

水飛沫が僕の頬の数センチメートル手前で

蒸発し消えた

あなたが消してくれた涙のように心地よく

 

あなたと遠く離れて

あなたは僕を忘れ

僕はあなたから振り向く

僕は本当は赤が一番好きなんだ

あなたが僕の血で染まり

赤いペガサスになっても

この火の星ほど赤くは染めれなかっただろう

 

僕は手足からこころに向けて

蒸発してしまった

あなたはいつか

この空のどこかに

僕のもぎ取った自分の翼があると

陽の光など見るのだろうか

そう微笑みながら

僕はこころも

蒸発してしまった

 

ペガサス

陽がさせばあなたは

ペガサス

陽がさせばあなたは

 

 

訳:Sorato Tubasagi

‘ペガサス 第4章 7節 『翼』’