このちいさな手にあまるもの

銀色の腕時計を

焦って探して飛び出して

降りてしまった踏み切りまたいで

時間に間に合う最後の電車で

胸ポケットに切符をしまった

 

足を伸ばしてあくびをひとつ

運動不足の靴の先には

乾いた土がしがみついてて

払い落とせず じっと見ていた

 

昼下がりの電車の窓は

乗り換え駅の少し手前で

散歩途中の犬の目線で

川原の土手と並んで走る

 

四角い空に丸い雲

春の雑草 フェンスをつたう緑のハート

横から見れば菜の花は粒の大きな黄色い噴水

みんながみんな風に揺れ

逆光走る自転車だけが

すれ違いざま止まって見えた

 

ここを歩いてみたいと思って

忘れたままで

それでもときどき思い出し

もう一年も過ぎてしまった

 

乗り換え駅は乗り換え駅で

ここからどこかへ通り過ぎては

立ち止まっても

決してなんにも聴こえなかった

 

何十円か損をして

改札くぐって土手に向かった

公衆電話で謝って

乗ってくはずの普通電車を

踏み切り前で見送りながら

飛行機雲を目で追った

 

次の駅まで

このちいさな手にあまるものなど

みっつ拾って

急行電車で君に急いだ

 

「泣ける映画だっていうから

ちょうど良かった。」

楽天的な君だって

こういう風にやっと出逢って

あきれるくらいに笑うから

 

おもちゃの箱をひっくり返して

なくした事さえ忘れてた

おもちゃの指輪を見つけたようだね

 

どんなに素敵なものだって

大きなものがひとつより

小さなものがたくさんあるのが

好きなところが多分似ている

 

このちいさな手にあまるもの

ひとつは君に

ひとつは僕に

いちばん小さな最後のひとつは

ふたりの間に

 

きざな言葉をからかいながら

そういうものを信じて止まずに