プラットホーム

自動改札口で手を振り払われて

かけて行く君をどうしようもなく見送った

帰り道を急ぐ人たちが

僕のせき止めた改札を避けながら

不思議そうな顔をして覗き込んで行く

 

切符売場で小銭をばら撒いて

知らず知らずに人を押しのけて

駆け込み乗車で吊革にぶら下がった

 

切れた息で深呼吸しながら頭を冷やす

ちょうど来た電車を知らない瞳で君が見た時

それでも振り返ってって届かなかった願いに

ひとつ前の電車に乗って行ってしまった願いに

追いつけるように

 

地下鉄の窓は鏡のようで

どれほど目を背けたくても

ありのままの僕を映す

なにも諦めたくないと口でいいながら

なにも欲しがらない僕

それはただの怖がりと

僕より先に君は見抜いたんだね

 

次の次で君の駅に着く

席が空いたけど座らずにおこう

扉にもたれてガラス窓に額を押し付ける

灰色の壁が流れているだけだけど

もしもホームに君がいたなら

君より先に見つけられるように

 

改札を抜けた狭い通路

公衆電話の隣りのベンチに

うつむいたまま君は座ってた

名前を呼んでも肩を揺らしても

顔を上げてくれない

少し大きな声を出してしゃがんだら

僕を睨み付ける赤い目が見えた

 

頬をぶたれて

君も僕も涙が零れて

僕は君を抱き上げるように

強く長く抱きしめた

 

君は手が、ジンジンするって呟いたけど

僕はこころが、ジンジンジンジンしびれてた

 

アナウンスがプラットホームに響き渡る

次の電車が時間通りにやって来る

帰り道を急いでいた人たちが

改札を少しゆっくり抜けながら

不思議そうな顔をして覗き込んで行く

 

終着駅まで行ってみよう

もうなにも諦めないとは思わない

僕は君のなにもかもを欲しがるけれど

そのために失うもののひとつやふたつは構わない

プラットホームに肩を並べて立てないことが

どんなに辛いかやっと分かった

 

ここからどこかへ行くって時は

かならず一緒に待っていたい

ここって名前のプラットホームで

どこか行きって電車をいつも

 

時刻表を見上げながら

君とだけ分かり合えることで

微笑み合えば

ベンチの足にもたれかかってた

涙のかたちした小さなペットボトルが

風に転げてふたりを笑った