満月

夢までの

道程を思って

夜を見上げた

白いため息 風に流れて

ひとつ

ふたつ

みっつ

クレーン灯の一斉点滅が

できかけた駅ビルに支えられ

音のない鼓動を響かせている

胸にぽっかり開いた

夢を知らない子供のような

夢しか知らない子供のような

小さくも速い鼓動を響かせている

 

夢は夢のように綺麗

そう思えたのは

何時だったろう

 

 

「白線の内側でお待ち下さい。」

繰り返される10番ホームのアナウンス

予備校をサボって

後ろめたさを乗せた電車を

この胸のイイワケで

何度も何度も

見送った

 

夢は未来で叶うだろう

 

夢が今はここになくても

 

嘘だと分かっているのに

 

夢は夢のようには綺麗

そう思ったのは

何時だったろう

 

開いた扉に

家路の途中の

大きな背中が吸い込まれて行った後

ヒューヒュイッ

発車の合図の笛が鳴る

それが日曜日の朝や夕暮れ時に

おいかけっこする

子供たちの声みたいで…

 

建設現場を見つけるたびに

空に突き刺さるクレーンの

その先を見つめ続けてた

子供の頃の小さな背中

 

その背中 押し続けてきた

少年時代の二枚の手のひら

 

たったひとつの

夢を見はじめる頃

やっとおとなに

なろうと決めるんだろうか

 

 

飛び乗った電車が

最初のカーブを曲がる時

クレーンの鎖の先っぽに

引っかかってる

満月が見えた

クレーンはみるみるちいさくなって

満月だけが何処まで行ってもついて来る

 

胸には

満ちては欠けて

消えては満ちる

大きくも遅い鼓動が

響いている