道草

雨もいいかもしれないと

緑の単線 各駅停車で

駅ビルにある美術館へと

思い出電車はあの日を走る

 

懐かし景色は びくとも変わらず

手を振っていた駐輪場も

コスモスのないコスモス野原も

鉄橋 隙間の鴨川も

車窓のレンズに切り抜かれては

そしらぬふりでこころに止まる

 

入り口見えないテーブルの下

ビニール滲んだ傘の雫が

水たまりまでゆっくり広がる

 

ミルクを入れてもかき混ぜられずに

買ったばかりの絵葉書しまって

壁にかかった砂浜で犬は振り向き

海を見ている人影見つめる

 

力いっぱい泣けばよかった

中途半端にいいことばかりを

永久凍土に埋めてしまって

 

隣りの駅から乗りこむ姿や

帰りもおんなじ車両の夜や

隣りの席が空いてた奇蹟や

そこに座った横顔や

勇気をかけて震えた声や

名前も聞けない弱さの奥や

それでも出逢った小さな月日が

運命なんかを信じてないのも

運命だったと思わせたんだ

 

夕間暮れ 一番星を探すため

ひとつ手前の駅で下車して

見送られてたホームに立って

手を振り返すよう 空を仰いだ

二人乗りしてふらふら走った

商店街を歩いて帰った

 

公園までの急な階段

雨が上がって夕焼けが

手すりも車も黄色く染めて

光の列がたくさん並んで

噴水越しに見下ろす町を

最後だよってきれいにさせる

 

雲が多くて見つからないから

ふたりで座ってずっと待ったね

初めて僕が先に見つけて

君は必死に探してたっけ

それを笑って怒られたんだ

 

いつかのデートをひとりで辿って

かっこわるさにひとりで笑って

今頃やっと涙が出て来た

 

始まりから終わりまでより

終わりから始まりまでの方が

曲がりくねった長い道でも

なおさら僕は遠回りして

いろんな星を集めて行こう

 

滲んだ星はさよなら星だね

あれがちゃあんとひとつになったら

大きな通りを見つけて植えよう

誰も食わない切ない色の

優しい咲かせる

ただの道草