風がこころに触れる時

晴れた日が続いて

すべての雲が溶けてしまった

薄青の空が見える度

風が膨らませたカーテンが

寝転んだ額を撫でる

きっと夏になったら

足をさらう海の水のように

ひやりん

ゆらりん

 

膝上で切った古いジーンズで

土の上に裸足のように振る舞う休日が

もう子供の頃の塗り絵みたいに

数字の毎日をはみ出して来た

 

窓際では遠くの場所から

何か僕のこころと変わらない埃が

たくさんこころに降りしきる

 

瞼を赤と黒のスクリーンにしても

白いワンピースの蝶々が飛べば

舞い上がる埃を銀色にするため

陽射しも天窓を割り差し込んでくる

 

僕が土や空になるまでは

割れた窓もそのままで行く

長い雨も時雨れも落ち葉も

切手の千切れた手紙でしょう

 

僕が土や海になるまでは

見えるものは深海だって余さず見よう

聞こえるものは空耳だって余さず聞こう

行ける場所なら最後はきっと大きな穴へも

 

僕は目を開けてさよならを言う

靴を履き手を降らず手紙も残さず

何もかもが大切なわけじゃない

そんな諦めのフェンスで囲んだ

草の生えない部屋を出て

ほったらかしの空き地へ行こう

 

軽く握った窓の破片と埃をばら撒き

また寝転んで丸い空を見上げながら

今度こそ僕で僕になろう

石を拾っては名前をつけよう

苗を植えては雨を願おう

来る人拒まず

去る人追わず

 

星電球の天井で

頬笑み返すゆるい流れに

散った花びら

いちいち流せば

巡り巡って最果ての地で

涙の中をくるくる咲くだろう

 

いつか放り込んだがらくたが

こころを持った僕になる

なまじっか抱きしめたから

あの日捨てた色鉛筆が

街や月を包んで虹になる

半分に折れてても多すぎるほど

こころの中で

この世の中で

意味も紛れもなく

 

僕が土や木になるまでは

無謀な夢でもできる限りをやろうと思う

零す涙を数えたりせず

どれくらいかなんて

昨日と今日の距離も測らず

 

これまでの僕達が風に吹かれて

そこにいる

フェンスに絡まり床を押し上げ

部屋はいつか森になるだろう

 

これからの僕達が波に抱かれて

ここに来る

ガラスを飲み込み埃を溶かし

僕を沈めて水にするだろう

 

土に染み込み木を育て

緑の葉から空へ行く

そしてもう二度と

僕は僕で生まれない

 

今でさえ

こうして生きたと証はないけど

何かが時々生きているよと教えてくれて

生きてるんだと気づかせるから

こうしてたまには寝転んで

何もかもが大切なわけを

埃混じりの水を零して

深呼吸して考えてみる

 

晴れた日が続いて

すべての雲が溶けてしまった

薄青の空が見える度

風が連れて行こうとした木陰が

寝転んだ額を撫でる

それは

風がこころに触れる時

きっと夏になったら

足をさらう海の水のように

ひやりん

ゆらりん