夕暮れの森

もうずーっと前に落ちた葉を

踏みしめて森の玄関をノックした

キッチンには妖精がいて笑ってた

窓枠ではきのこが煙を噴いていた

そして そして なんと

もう歩けない老人が

木陰でぼくらを見つめては

きけない口で教えてくれた物語がある

 

妖精もきのこも

羨ましそうにこっちを見てるよ

きっと秘密のお話なんだ

耳を傾け 膝を抱えてぼくらは聞いた

こんなに大きな木々が昔はここにも

たくさんあって たくさん切られて

たくさん死んで たくさんだったと

光の具合で泣いたりしていた

 

こんなに澄んだ湖や川も昔はここにも

ホントにあって だんだん汚れて

魚も死んで さんざんだったと

ゼンマイ小径でこけたりしていた

 

蝶々のようについて来ていた

妖精がくしゃみをしたら

思い出したように

煙をひとつ きのこも噴いて

ぼくらは笑った

夕暮れの中 ぼくらは笑った

 

「さぁもう帰ろう」

君がそういうと

 

とたん

 

森ごと空に消えてしまった

しばらくぼけっとするしかなくて

じーっとふたりで立っていたけど

怒ってないかと

心配しだした君が可愛くて

物語はそうしていつしか忘れてしまった

 

トタン

 

扉の閉まる音がして

そんな気がして

そうして再び森を見つけた

振り返ったほんの瞬間

 

踏み切り待ちの赤い点滅の向こう

線路の向こう

夕暮れはもう黄色い光の帯になっていたけど

君を見たら笑っていたね

そんなふうが大好きなんだ

どこで憶えたんだよぅ

そんな笑顔を

 

ぼくらは来た道をまじめに帰る

アスファルトの道を避けずに帰る

一番星には明日があった