見れない写真に聞けない詩を ~かすみそうの詩~

僕が好きになった人は

どうやら目が見えないらしい

あ、らしい、というのは

つまり会ったことがない

いや、会って間もないからなのです

 

彼女は写真を送ってくれるのですよ

どこかの窓から撮っています、すべて

いつも同じ景色なのです、でも

方向がやや違っていて、窓枠が

病院っぽい白い壁の窓枠が、花瓶の花も

小さな白っぽい机か台の上の花も

窓の向こうを塗り替えてる、ずっとずっと

気持ちなんだろうね、彼女のきれいな…

 

週に一度、月曜日の夕方に、家族は皆出掛けてる日

実際はお昼頃らしいのですが、郵便配達のバイクが来るのは

学校から帰って来た僕が、ポケットから鍵を抜き出しながら

少しかがみ込んで、気持ち高ぶらせながら 半透明の白い

郵便受けの蓋をスライドさせると、大抵夕刊の下から

写真の入った、一枚、それはみんなカスミソウの束を

目の前で揺らされた彩りに似た、そのようにぼやけた

封筒の角が顔を出してる、もう50通ですから、一年間くらい

 

どんな人かな、当然思います

雨の日も、晴れの日も、雪の日も

同じ場所から、朝や昼や夜に、よく夕暮れに

多分毎日写真撮ってるんだなぁって

あらためて思うと… 気分がいいのでちょっとコーヒーを入れてきます

え?ああ、そう、カスミソウの束を…って写真のこと

封筒は、市販のもの、無印かな

 

コーヒーはモカ、いい香り。

はい どうぞ。ミルクは?砂糖は?

どこまで…

あ、彼女に会ったのは、実際には会ってないのですが

そう、まだ実際には会ってないんですが 会った!って瞬間があって

いや、彼女の書いた手紙を見たとき なんです

あ、いつもは写真だけだったけど

当然ってことがえっ?を引き起こすでしょ?

一年以上かな、で、初めて手紙つき

 

えっ?てこともやがて当然になるでしょ?

最初、封筒開けたら写真だけ、しかもピンぼけ

それが一年以上でしょ、変でしょ普通、でも

そんなこと、変だなんて一度も思わなかった 不思議、でも

きたない字、写真で慣れてて驚かなかったんです

あ、ポートレートの裏に名前があって それだけなんだけど

それが僕の言う彼女の手紙です

きたない字、でも好きだった

 

僕は自分の部屋に机が二個あって、弟の

南向きの窓の前に並べてて、右側が 僕の

休みの日は大体昼まで寝てるから

夕暮れ時にそこで 書く、手紙とか詩とか週に一度

夕暮れ時からってことかな、夕日がない日も一緒で

変わらず、大体日曜日、祝日があれば祝日

 

大体もう薄暗く、やがてちゃんと暗くなって

明かりを点ける、スタンドも点ける

大体8時から晩ご飯食べて…

 

とにかく夜中までかかる、手紙は長いのが好きだから

毎週来るけど、返事は結構いい加減、月一もある

 

彼女は、僕の他にも何人かに写真を送ってたようです

同じ写真じゃなくて撮った写真から何人かへ、いいの選んで

あ、最近また来た手紙に書いてあったの

どうやら今も返事を出してるのは僕だけになった、らしい

らしい、というのは

一年に一度返事をくれる人はいなかったけど

二年に一度なら、三年に一度なら、という人も

いないこともないだろう、ということ、らしい

からかってんだな

 

僕は普通の人なんですよ、とP.S.に書いたんです

笑ってくれればいいなと思って

どうやらちゃんと笑ったらしい、ってのを知ったのは

彼女から三度目の手紙「前よりちょっと短いけど」が来て

僕は彼女が好きらしい、って伝えるには

字じゃ駄目で音にしなきゃ、とちゃんと知ったわけです

 

とにかくそれで考えて、悩んだかな

詩をうたって贈りましょう、と

僕には聞けないけど

手紙に似て少し長い僕の声

テープに録って、うまく包んで、タイトルはP.S.

笑顔が見たいです。と、かなりくさいけど

男だし、一応これくらいは、告白だし、夜中だし

(やっぱ笑ってくれればいいなと思って、って言おう

次で、次があったら…すごい未来形のいい訳だな)

 

…みれないしゃしんにきけないうたをぼくがつけました きいてください

…あなたはカスミソウをみたことがありませんから これはカスミソウです

…カスミソウといううたです はじめます(ここからさきはひとりできいててください)

 

 

 

かすみそう

 

まどにふくかぜで きみのはなにふれた

きみのかみのかおり きみがかがずに

ひとひらおとさず そらへながせば

うつろうけしきが かすみそうでも

かすんだこころが ぼくにはきこえる

かすんだこころが ぼくにはきこえる

 

 

 

添えた手紙 (P.S.僕はきっと君の笑顔をもっとたくさん見たいです。)

 

僕はまた何故一度も会ったことのない君を想うか

きっとどうでもいいと思えば思えるけどやっぱり不思議な

もうあの写真で恋だと言えば恋は成立してた きっぱりと

聴かずとも君の声が聴こえる そんな力を僕は生まれ持ったんだ

己惚れかい なら己惚れでいい 目の見えない君にも僕が見えると

信じる僕が 僕の中にいることを 僕は信じる 信じて止まない

君も己惚れて 僕が見えると 空に触れると 花も枯れないと

君が言うなら 僕は信じる 信じて止まない 誰よりも きっと

誰よりも

 

 

…きれいごとかもしれません

…でもこれでもせめてもです

…ばいばい また