飛躍

真昼の川岸から身を投げて

夕暮れの海岸線に流れついた亡骸

想い出の壁伝いでは

もう君は固い指先のテントウムシ

 

他人が他人に残す跡なんて

もう何もない

たった二人の人間が

思いつめた答えが

羽根を広げた

 

どこかの水平線で

君の唇は枯れてないラベンダーの色で

船の白い水飛沫の先では

空の夜から人の

打ち上げた星がゆっくり降ってる

忘れものをわざとして行った

時間の欠けた小さな島

ガラスを踏んでできた傷には

たくさんの砂がついてる

 

君が汲んで来た水をかけたら

みんな流れたんだ

その夜星は

たったのひとつも流れなかった

 

太陽の黒点のように冷たい

黒い星を撫でられて

君は大空に

オーロラを残して

羽ばたいた

 

君に話す言葉には初めから限りがあって

もうなくなったんだろうか

沈黙の中でも「指」と「指の間」のように

想うがゆえに洩れてたんだろうか

今だからこそ分からないなら

まだ気は楽だけど

ずっと分からないなら

もう想うことだけが辛いようだよ

 

さよならが風に乗ればいいのに

さよならがいっそ風ならいいのに

霧を吹き消すような空高くの風ならいいのに

空高くの星ならいいのに

僕の手には届かない

空高くの幻ならいいのに

幻の空高くならいいのに

僕の手には届かない

幻の空高くの風ならいいのに

 

固く冷たい「指」は

「指の間」を無くされて

先から風化してくだろう

自然の摂理に 紙一重

君は飛躍し

僕は埋もれて