星空と本棚

珈琲好きの梟

火に掛けるポットは赤い琺瑯

一杯ごとに豆を挽く

季節変わりに風邪をひく

 

隅々まで片付けた

住処の片隅で

くるんと首をまわす真夜中

何をしようとしてたのか

 

「はてさて…」

もれる本棚ののろまな吐息に

「こんばんはほんだな」

待ち兼ねた星空の挨拶が重なる

「かおりにさそわれて」

 

冬の夜空が白いまま更け明けて行く

「がろろん」

振り子時計のばねがほどける時分

少ないがそれで十分な二人の会話の溶けた夜を

冷めてしまった残りの珈琲のように

朝がごくりと飲み干した

 

「ごちそうさまほんだな」

99の白い生き物が住む

夜も日の沈まない白の森で

ただ一人体の黒い蝙蝠はそう言うと

窓から落っこちるように飛び去った

 

「おそまつさまほしぞら」

本棚は空のカップを両手に

流しに向かいながら返事をした