東京タワー

君が

住んでいた湘南の方のまちに行きたいと

「とてもたいせつなひとと」

 

「ゆくんならゆきたいなあ」

 

なんて言うとき

東京の方のまちにも住んだことのない

僕は

「さざんおーるすたーず」

 

「とうきょうたわー」

 

くらいしか思いつかなくて

かいま見える

君の言うトテモトテモステキナモノを

うつし撮る

君のみじかいお話のせまい入口に

ピンホールカメラ据えて

 

 

 

九月になって台風が二つも過ぎると

青空と夕日が一緒にいる夕景が綺麗です

京都の町も涼しくなって来た気がします

ちいさな雲がたくさんです

 

途中で降りた夢だったけれど

一度は建築の勉強をしてた私にとって

あんな大きな建物が崩れてしまったのは

とてもとてもショックでした

 

最近ラジオを聴く習慣が出来ました

静かな生活を送っているからかもしれません

たいへんな天災ではない事件が起きて

たくさんの人が亡くなりました

 

真夜中に目が覚めてふと点けたテレビに

こわくなって眠れなくなりました

あなたに携帯電話からのメールを久し振りに出した後

朝方のさっきまでラジオを点けたままうとうと起きていました

 

あなたの言うように私も生きていることを強く感じていました

心が張り詰めた糸のように緊張していて

それはまるでアンテナのように思えました

 

遠く離れてしまったあなたのことをはじめ

知らない人の心の声までも聴こえるような気がしたのです

東京に行ってすぐ自慢気によく話していた

会社帰りに見えるというあなたの言う夜の東京タワーが

真夜中の心の中でぽっかりと浮かぶように輝いていました

 

もう眠れそうになかったのでとりとめなく手紙を書きました

 

言いそびれてしまっていたけれど

私の住んでいた町から

東京タワーは見えなかったんだよ

 

 

 

僕が

撮りためてたキミノトテモステキナモノの中に

「とてもたいせつなひとと」

 

「みあげるよるのとうきょうたわー」

 

なんてものがあったのを青い文字に思いだす

君が

東京タワー色の夕景と言ったいつかの天気雨の夕暮れを

あの広い京都の空とともに思いだす

 

電話代がかかるからとお互いひいた家の電話機には

冗談みたいにプリクラが貼ってあって

受話器をとるたび僕はいつもすこし力がぬける

 

こんなにせつない気分の夜にも

かるい調子でダイヤルを十回プッシュする

 

「おてがみとどきました」