手紙と空缶

手紙は夜を想像してみた

昨日は花を

一昨日は歌を想像してみた

夜も知っていたし

花も歌も知っていたけれど

自分の知らない夜は 花や歌は

どんな色かと

 

一羽の蝶が長いうず巻きを伸ばし

葉陰で雨を待つ蝸牛の

かたいうず巻きをノックした

 

空缶は殻の中から

光に透けるシルエットで

「おひさしぶり」と返事をしながら

角を伸ばした

濡れた目に手紙が瞬間七色に光る

その粉までいちいち大好きな場面だった

 

手紙はよく言ったのだった

「たいようにひをつけたのはだれだい」

空缶はずっと答えられなかったけれど

最後に会った日

「すべてのいろをまぜたらそれじゃないかな」

そう言ったのだった

 

空缶は手紙を探さなかった

ただ

夜を想像してみた

花を歌を想像してみた

手紙も今

見ているかもしれないその七色を