2年ぶりに彼女を見掛けたのは
いつもから20分遅れ
1限目の休講を忘れて
焦って走って待たされた
緑の方だった
待ってた場所は
いつも通りに後ろの方で
でもそう言えば
見送るどの車両もとても空いてて
1番後ろの車両に乗るのが相変わらずで
また何か、小さな機会を逃したようで
少し悔しがったっけ
ホームの向かい側
背に日の当たる端の席
座れたからと目を閉じたけど
頬杖のバランスがうまく取れない
眠れない夜の眠たさがしてた
乗り換え駅まで12分
2年2ヶ月も乗りながら
見慣れたマンション ベランダ 校舎
開店前の銀行の窓 踏み切り待ちのフロントガラス
そこに流れる緑の電車
見え隠れする 動く人々 待つ人々
そう 偶然だからと何気なく
好きだったドラマを再放送で見るように
いつもと似てる初めての景色を
正面の窓を画面に、目を開けてみていた
今思えばそんな気がする
でもそれは 今まで毎朝のことを、
なのかもしれない
町には色違いの電車が
2つ並んで走ってて
片方は、土手沿いを行く
今使ってる緑の方
そして、隣の駅を過ぎる頃には
山の方へカーブしていく
もう片方の茶色い方
茶色い方は茶色と言っても
濃いクリーム色の単線で
朝のラッシュ時にも15分に1度の
普通電車だけだったし
同じ予備校 同じクラス
同じ電車に乗ってるはずで
どこかで見たことある気はしてた
1つ年下 思ったよりも低い声
そんなことも知らない頃で
彼女に決まった車両はなくて
あの頃もいつも 1番後ろの車両に乗って
垣間見えるかもしれない右の横顔
人の流れ込む扉、3つ先まで
連結の小さな窓から探してたんだ
なのに、見つけたとたんに目が合いそうで
いや、たぶん それを願って目を逸らしてた
でもね、2年ぶりのあの日
隣の駅に着いた瞬間っていったら
ドラマが突然スローになって
それでもまだ速すぎて
あの横顔に なってく彼女を
連なる窓にコマ送りにしたって
そういう感じだった
彼女はあの日も
全然気づかなかったけど
少し太ったね
思わずこころで話し掛けながら
あの頃と変わらない
肩からかけたバッグの持ち方
じっと見つめてた
それから、でも
やっぱりゆっくり目を逸らし
乗り換え駅のベンチで5分
1本遅れの急行を待ち
いつものように いつものように
しっかり前を見て 乗り込んだ
同じ年に
彼女も大学に受かったっていうのは
聞いていて
だけど、もう2年も見掛けなかったから
どこか遠くへ行ったんだと
そう思い込もうとしてたのかもしれないけれど
ずっと思ってたつもりだったのに
なぜだか確信めいた予感を持って
あの日を きっと待っていて
その時自分はどう思うかって
自分の気持ちを決めかねてたんだ
まだ好きなのかもしれないと
思ってるのは案外楽で
あれから1度だって
人を好きになることもなかったくらい
真っ直ぐな気持ちを避ける
逃げ道にしてしまってた?
まさかほんとにこんなこと
思い出深い片想い
まだきれいにしながら続けてた?
そんなこといろいろ考えていたのに
3つ目の駅の
特急待ちの停車時間
休講だったって
気がついたんだ
馬鹿だな
いつだったか
目をつむってた模擬試験の朝
隣の吊革に現れて
それで初めて話もできて
いいことって
期待しない時に叶うもんなんだなぁって
決めつけたっけ
そんなことまで思い出しちゃって
みるみるうちに
流れないくらいの涙が
瞳と瞼の間に溢れ出て来て
ぎゅっと慌てて目を閉じた
泣きたいけれど、泣いてたまるか、なんてね…
あの頃の気持ち 遠い横顔 流れる景色
ぜんぶ揃って片方だった
それさえ気づけず相変わらずなまま
たったあの日まで それがすべてと
半分過去に沈んだままで
半分今にはいなかったんだ
すべての想いは 半分こころに溢れて零れ
すべての人に 片方の手は触れずに過ぎて
すべての景色は 片方の目に映らず輝き
左手を少し握り緊めてみた
それから開いてじっと見てみた
ぽたぽた ぽたぽた
また握り緊め右も左も頬をこすった
再放送にも最終回
知ってる結末で
“終わり”を迎える
状況かなり違うのに
槇原敬之の“EACH OTHER”がワンフレーズ
挿入歌みたいになぜか聞こえて
知ってる結末でも
それでも違った想いを抱いて
迎えられるのは
きっと何かを傷つけて
少し何かが変えられたんだな
って思ったんだ
このきれいになった思い出を
時間が十分流れたんだって
きれいなままでもとへ戻したくて
でも、やっぱり少し切なかったから
2時限目までは そう
あの図書館の日だまりで
少し眠って過ごそうって
それがいい、いいアイデアだって思いついたんだ
あの日は
午前中の日の当たる机で
とても短い夢を見た
とてもたくさん眠った気がして
はっと目が覚めたのに
まだ十分も経ってなくって
今日ってきっといい日だなぁって
その時なぜだかきっちり思った
しばらくぼぉっとしてから
枕代わりの本を返して
いつもより人知れず背筋伸ばして
図書館を出て
スロープから見下ろす
煉瓦の歩道沿いに並んだ木が
自転車置き場で影を揺らしてて
正門へ向かう人に紛れて
混み始めたエレベーターに
少し急ぎながら腕時計を見た
だから
その時跳ねた銀色の眩し過ぎる光で
この茶色い出逢いと緑のさよならって
思い出は締めくくられてるんだ
もうそれは まだどこにもない1つの詩で
それはそれは美しく、ね
このこころに、ね