一本の木を見上げると
ざわめく人混みは暗闇に消えてしまう
僕らもすっと 消えてしまう
君が引き止めなければ
言葉もそっと 連れてかれそう
―奪われるように
―君への言葉が…
てっぺんの星型の一つ星が
集まった光を風に放ってるね
冷たいその銀色に触れて
街中の文字も 暗闇に消え始める
言葉は残らず 連れてかれてく
―吹き飛ばされる
―君への言葉だ…
すべての本がぱらぱら めくれ
ひとつ残らず真っ白になる
地図も宇宙の点描画になり
あらゆる数字 記号もなくなり
こころのわずかな 言葉さえ
色だけ残して 消えてなくなる
―君への…
―君への…
一本の木から目を戻すと
だれもいない 街に
なんにもない 街に
君が一人で立っていた
一体それはなんなんだい
水の膜の張った暗闇に
すべての色が 瞬いてる
―君への… 君への…
―気持ちに 似てる!
―それは… 僕への…
―気持ちに 似てる?
届かなかった腕が
今夜はたくさん 伸ばされてる
―ざわめきが
―帰ってきた
空は あしたのように真っ暗で
きのうのように 星があり
僕らはまるで いまのように
ここで 微笑み合えば
それで いい