淋しさからほころんだ糸は
爪や髪のようには切り捨てられなくて
その先に 例えばそれは涙のような
染みるあたたかみを求めている
カンカンと踏切が閉まる
駆け出そうとして先を見てしまった
歩行者の信号が点滅している
小さくていい
すぐに消えてしまっていい
一度でいいから、と
この僕は何を いつも願っているんだろう
君の囁き声は
いまも僕の片耳に届く
忘れてしまっても
君の声だと聞き分ける
秋桜が雑草に混じってきれいに咲いている
鉄のレールがたわんで擦り切れる音に
僕は足を止めてしまうけれど
こころは時間と行ってしまう
空の彼方の美しい雫が
近づけば土砂降りの雨になること
僕はいつ知ったんだろう
大人になるなら 死のうと言っても
僕の何が 壊れるだろう
そう思わせていた日々が
君とあったことさえ ほんとうだったろうか
あの頃に放った光が 未だにどこかを進んでて
それを想う僕だけが
ここにいる
瓦礫を踏みしめて 僕は秋桜を引き千切って
枕木に横たえた
背中に当たる夕日が
近づくことだけに使われない手足を
かろうじてあたためる
僕は下ばかり見て坂を登る
家に帰り着くと とにかく
あちこちのスイッチを入れた
最後に
君がいつもいた場所に寝転がりテレビを点けた
夜が始まる
ことごとく一人でいることを
こころはひとときも許してはくれない
最後まで一人でしかいられない 僕や君と同じように
それだけを 許してはくれない
遠くに電車が うつろに走ると
僕の胸には 花びらが舞う
手足の先だけが さらにじんと熱くなる
チャイムが鳴らずに
僕はこれから 涙を
流すだろう
夜が始まる