鳩 〜涙は花に、みずをやれますか〜

ちいさくちぎったパンを

砂の上に蒔く

文字を消すように 鳩が

ひとつ残らず啄ばんでしまうのを待ちながら

僕はまたパンをちいさくちぎり

互いに待つのを忘れたころ ふたたび

思い出したように ばら蒔く

 

アスファルトの道にはそういえば

足跡が残らない と

空からでも見れば そんなふうに

僕は鳩にもなれず 見下ろしているのかもしれない

 

なんにもない

それが青い

 

あんなスピードでぶつからず 君らは飛ぶのか

突然立ち上がってしまって ごめんね

センチメンタルなのが 僕は好きなんだ

センチメンタルな僕は 大嫌いでも

 

くずかごの前まで歩いて まとめたごみを落とす

がさという音が ひどく深い穴の底から聞こえた気がした

行き先は 大型スーパーと病院の間の路地を抜けて

あの夕暮れ時に似た交差点の まだ向こう

 

二度と出来ないことを一度きり

そればかりをしたいわけじゃない

繰り返しも 波のように海の端

だから終わりが無数にある

始まりも同じくらいにある

でも それをいちいちひらいたいんだ

そして最後に 海に行きたいだけなんだ

 

鳩は まっすぐ前だけを見て

飛んでいるかもしれない

なんせあのスピードだ

だけどときどき 空を見上げて

空を見上げているかもしれない

じゃないか 今ならそう言えなくもない

 

ときどき思うんだ

涙は花に、みずをやれるだろうかって

涙もろい僕の胸は 涙を欠くことはないから

でもそこは満ち足りた海じゃなく

荒れ果てた大地でもなく 花が咲いているから

 

涙は花に、みずをやれるだろうか

砂浜にひととき足跡を残し 僕の胸はやがて

海になって 満ちに満ちる

そのときはどうしても 君を

君を想う僕を 感じていたいんだ

 

飛び立つ鳩のようには

真昼の空に 僕もときどき

星を探している