敵のいない僕の部屋には
僕のものばかりが無防備に置いてあって
突然の雨にも窓を閉められる場所に
いつでも僕はいます
新聞の集金も
珍しい宅配便も
お金は 十ヶ月ぶりの散髪代に
とっておきたいし
ハンコは一階に
あるし
間違いかもしれない電話さえ
電話のベルはいずれ相手の諦めによって
切れてしまうのだ身勝手に
かけてきておいて
という理由だけで無視して
僕は僕の部屋のある二階に
いつでもいます
僕が呼吸していることと言えば
風、光、音、そんなものでしょうか
けれど、最近
毎晩わけのわからない淋しさに
襲われるようになりました
淋しさは
言葉にできない苦しみでした
淋しさは
となぜ言えるのかも考えてしまいそうです
朝になると
きまって僕のものがひとつ
なくなっている
封を開けてまだ間もない手紙の
封筒や
時計の短い方の針や
ごみ箱に貼ってたシールに
長い定規
細かいものばかりを他にもいろいろと
僕はなくした
淋しさに襲われた上に
淋しさに襲われた上に
今夜もまたあれは
淋しさは
やってくるでしょう
突然の雨には窓を閉められても
あれには
淋しさには
これ以上僕のなにを閉じればいいのか
分からない
僕には僕のものをなくさないよう
引き出しに丁寧に仕舞うくらいの手だてが
関の山です
君を愛してしまいたい
昔流行った歌の文句のように
涙が出てしまう
君が敵でも受け入れなければいけないのか
引き出しに入れ忘れたノートに
それでももっと愛されたかった
と書き残して
僕は死んでしまいたいほど
淋しかった
そして言葉を奪い去った君が
姿を見せる夢ばかりを見ていた
敵のいない僕の部屋には
僕のものはもうなにも置いていなくって
突然の雨にも窓を閉められる場所に
それでも僕はいて
これからには もうなにも
来なくなってしまったようです
君を愛してしまいたかった
君が淋しさだったのでなく
それを奪えるものだったのかと
ぼんやり思っています
ぼんやり思っています
また風か
また光か
また音か
それに馴染んでしまった
淋しさだけが
今も僕とある
けれどそんな静かさも
やっぱり奪われるようで
僕は敵ばかりの部屋の外に
しまった
という顔で転げ落ちてみて
手を挙げた
後悔ばかりの胸から
たぶん血だらけの
手を挙げた
君を愛してしまいたい
それからは憶えています
それだけを
まんべんなく愛する手段など
僕は生まれ持っていない