八月の終わり再び木陰が帰って来て
五時まえの夕景の歩道を自転車に乗って走る子供たちの
まぶしい暗褐色
形を変えない僕への感情を求めすぎて
僕は迷ってしまった 一人部屋の窓から西を見ている
カナシイこともスバラシイことも移りかわる美しさをもち
それを死と呼ぶなら 祝福すべきとすら思う
映写機から取り外してフィルムを両の手に沿わせてみると分かるかもしれない
決して記録されない僕たちのほんとうの人生で
愛しい人を見ると唇を指でなぞってしまう仕草の理由も
活動写真の白黒と現実の彩りとその間に佇むような褐色の空気の
満ちている小部屋みたいなサロンの隅の
古い椅子に座って僕たちはたわいない話をいくつか交わして
安心して笑って息をつく 冷めかけたウィンナコーヒーを少し飲む
帰って来た木陰も 子供たちの遠い影の暗褐色も結局僕に
君を思い出させるだけのことだと思う 君にもらったチョコレートの箱を
冷蔵庫から取り出して包み紙の中のアーモンドチョコを食べた