手紙

誰かに手紙を書きたくて

 

夜を徘徊するように音楽を聞く

 

便箋も封筒も季節に合う

 

新しいのを買ってあるし

 

葉書も同様

 

フィアンセにいい万年筆をもらって

 

ガラス瓶からインクも充填し

 

準備は整っている

 

けれど昼間

 

考えていた伝えたいことは

 

夜になると消えていて

 

散らかっていた机も片付けたけれど

 

夜中

 

椅子に背を曲げて座ったまま

 

誰かに手紙を書きたくて

 

夜を徘徊するように音楽を聞いている

 

 

多分

 

今はもう思い出せないけれど

 

伝えたいことなんて端からなかった

 

伝えたい気持ちだけがただ

 

あっただけだった

 

 

ポケットがひとつだけの

 

こころ、今は

 

ひとりきりの笑顔を詰め込んでいる

 

 

今この同じ夜のどこかにいる

 

かつて恋した人や

 

仲の良かった人の

 

笑顔

 

思い浮かべると涙になるから

 

みんなわすれて

 

 

番号といっしょに

 

わすれてしまって