波音

生まれた瞬間

 

僕の胸は空っぽだったのか

 

それとも

 

満ち足りていたのか

 

生まれた瞬間

 

ぺしゃんこの肺に初めて空気を吸い込んで

 

むせび苦しかったのか

 

一瞬ののち

 

その空気は指先まで届き

 

深い海から顔を出したみたいに

 

僕は全体的に解放されて

 

安心したのか

 

大泣きして

 

母を

 

やがて父を

 

微笑ませて

 

泣かせた

 

 

僕が言葉を覚えたのは

 

何のためなのか

 

二歳の時

 

覚束ない発音で

 

生まれたばかりの弟に

 

話しかけながら

 

僕は

 

何を思っていたんだろう

 

 

君の薬指のさびしさを

 

僕は包もうと決めた

 

言葉ではないものだけど

 

この胸に今満ちているものは

 

言葉でしか形に変えられない

 

 

大泣きするようにして

 

言葉を綴れたら

 

いつも新しい発見に満ちた日々で

 

ぺしゃんこの心を膨らませながら

 

苦しい

 

楽しい

 

微笑みと涙が寄せて返す

 

波打際を歩き続けて行けたら

 

 

この瞬間に会うために

 

生きて来たのかもしれない

 

ほんとうは

 

すべての瞬間が

 

そうゆうものなんだろうけど

 

忘れるから

 

 

波音