月と梯子

薄氷の真っ白な月に

僕は開け放した窓から

よっこらしょと突き出した梯子を

そっと立て掛けると登り始めた

きっと本当の薄氷のように割れたりはしないが

そっと

より腕や足腰の力も消耗するけれど

そっと 立て掛けて

 

体力には微塵も自信が持てないが

簡単で単調な動作の繰り返しに耐えた末の

明日明後日の筋肉痛くらいの犠牲は払える

通りの向こうの高圧鉄塔くらいなら

すぐに越えてしまうのだ

 

ただ月は満ち欠けするので

暦は地上での地図代わり

道がなければ体力に自信がない僕は進む勇気が出ない

梯子を登るのは満月の晴れた夜

欠けた月ではやはり不安定だし

雲を過ぎれば天気も気にならないが

鉄塔のてっぺんからは思いのほか先が長いのだった

夜に雨に濡れ一人ぽっちなのは辛い

空気も意識も薄くなるならなおさらのこと

 

しかしついに月に辿り着いたことはない

梯子がとうとう垂直に立って全身全霊で登る時

輝いている月は最も強く

だけども最も小さく すなわち遠く

太陽が現れるやあっさりと消えてしまう

それでも随分と近づいていた僕は

梯子もろとも

今日もぽとんと

見知らぬ場所にしりもちをつく

 

しかしながら

懲りもせず

めげもせずひた歩き

木の実をもいでは盗み食い

次の満月の夜を待つ

てるてる坊主を

心に吊るして