モノラル

久し振りの陽気の中の散歩の後

川原から帰った僕は

明け方まで掛かって録音した

ラジオからの歌を大きな音で鳴らしながら

今暗くなった空にカーテンを掛けて

部屋で声を上げる

下手くそな掠れた声

何でもない瞬間に僕は涙ぐむくらい君を思う

 

向かいの家の犬が吠えている

僕の胸を冷ますものは今日はやって来ない

消費期限の一日切れたフランスクリームバターを

冬用のカップに入れた甘くないコーヒーと齧る

少し離れた町で同じお笑い兄弟コンビのネタを見て

あの時も同時に笑っていたんだ

揃ってもたついたこの頃の日々の終わりに掛けて

僕も見てたよあの時のテレビで笑ったんだ

あんな風に笑ったのは久し振りだねなんてメールを送って

まだ眠り方を見つけられない新しい枕に埋まった夜

 

なんとなく灯していたラジオを消せないまま

鈍く淡い色しか見えなくなってしまった心を撫ぜて

夜の薄まるのだけを感じながら

青空とか君が好きなんて歌を捕まえていたんだ

 

土手の上の道路を歩きながら聴く君の声は

僕の隣に君の姿を連れて来る

橋の下のバラック小屋の脇にあるビロードの一人掛け

赤いソファに半分影が落ちていてさ

日なたの方に三毛猫が丸まって座っているんだ

川上に向けて顔を上げている

僕たちの他に人影はないけれどあれは飼い猫だ

十分足らずの会話の中で僕は次々と色を取り戻して

笑った

 

いつもの瓦礫の椅子から言葉を綴る時

水面に映った夕日になり掛けた太陽は俯いた

僕の瞼の辺りでくらくらと揺れて

睨み付けると眩し過ぎる

 

陰るととたんに冷えてしまう

風も触れて来て僕は席を立つとゆっくりと

枯草の中に緑の何かの芽を探しながら

元来た道に向けて土手を登ると振り返った

 

生きていることを願います

誰がとゆうわけじゃないんだただ単純に

願いは叶うから