部屋の明かりを消して
ベランダに出てきたあなたを
幕を降ろすように
雲が隠した
今夜は星たちが静か
悲しいときにだけ使える魔法で
あなたが小さな雲を消したのを
月から見ていた
目が覚めたのか
ぶるぶるしたあと
月が久しぶりに呟いた
うつむいていると
目が濁るのを知っていますか
ああやってあの人は
ずっと私を見上げていますが
こころは何も見ていない
ずっとずっとうつむいている
そう、君がまだ私に来る前に
砂漠で倒れた人を見ました
涙に溺れて沈んだ舟も…
今のあの人はひどく似ている
僕にはどこが似てるか分からない
するとぽつりと教えてくれた
瞳がひとつも光を持たない
優しさが光のように溢れるならば
月になり夜中毎夜照らしてあげたい
と僕は思うのに
けれどあの人を助ける優しさは
あの人の分だけあの人の力で
あの人の中から生まれて来るはず
とほんものの月は何回と言うから
けれど僕なんかはできるかい
僕のように弱い人もいるんだよ
僕のように月に来てしまう人だって
恋人達が私を待ち合せ場所に
目を合わせる時間です
今夜はもうあの人からは
雲の陰へと消えましょう
君の言葉で最後にあの人に伝えて下さい
小さな雲も悲しみなんかで消さないで
また晴れた夜空で会いましょう、と
目が覚めると真夜中なのに
僕は朝のかけらをにぎりしめてた
もう一度ベランダに出て月を見上げる
せめてやれることくらいはすべてやってみるよ
幼い頃に聴いた月の語る朝のお話は
月の台詞で眠くないのに終わってしまう
私が聴いた悲しみの数くらいは
朝があることを祈るのです
私のように自分自身は輝かなくても
陽に輝いた歩き出す背中を見送ることが
私の大きな喜びなのです
月は自分自身を映し出す鏡だろう
形を変えてく悲しみにも優しさにも
自分自身で答えを探し出せるために
あんなにあんなに輝いてるんだ