君の部屋から近所の踏切と信号を一つずつ歩いて渡ると
クリーム色の百貨店の一階で食材をまとめて買い入れる
いつもデザートにシュークリームのおいしいケーキ屋の
ケーキを買うかモロゾフのプリンを買うか少し考えると
買ったり買わなかったりしてガラス戸を開けて外に出る
ケーブルカーみたいに斜面を滑るエレヴェーターが二機
駐輪場の辺りから屋上に繋がっているのを前に見つけて
今日も僕は空を見ながら少しはしゃいで屋上に向かうと
町の向こうの低い山に沈む日と近くの飛行場から飛んだ
飛行機が機体に日を反射しながら旋回するのを見続ける
キャベツと卵の入った白い袋を下げた僕と背の低い君が
手を繋いだり放したりしながらぶらぶらと歩く後ろ姿を
君に内緒で想像しているのを僕はまだ君に言っていない
オレンジ色の小さな花が散る道を僕は君と君の町で歩く
子供の頃から鼻がわるくてその匂いを仄かには嗅げない
僕は僕の町の散歩道の端にも積もるその花の名を尋ねる
「キンモクセイよ」君がゆう「匂いするでしょ」目が合うと
僕のフクレッツラに君が笑い休日はここで一つ息を吐く
今夜の食事はお好み焼きで君が千切りの下手さを嘆く頃
僕は缶ビールを流しの下の小さな冷蔵庫から取り出して
コップに少し注ぐと全然飲めない君に勧めて自分も飲む
君よりは上手な千切りを披露すると烏賊も切ってつまむ
千切りを再開した君の口に放り込むとおいしいと笑った
オレンジ色の星が月を追う明け方僕は君を僕の町で思う
子供の頃から記憶力のわるい僕は星の名を思い出せない
「モクセイかなあ」僕は思う「ドセイかもなあ」ベランダで
もう冬の匂いがする風が肌足と頬を冷やして過ぎてゆく
目を細めると滲んだ夜空で星がたくさん輝きを増すんだ